全力投資でない場合の「iDeCo」と「つみたてNISA」使い分け
最近話題の「老後2000万円」の影響か、妻が「投資をした方がいいのかな」と言うようになりました。
不安にあおられての投資は好ましくないですが、この機会に少しずつ投資を始めるのはよいことだと思いました。
そこで、妻の投資デビューについて検討してみます。
投資を始めるにあたって一番大切なのは「どんな資産に投資するか」だと思いますが、今回のテーマはそこではなく、「iDeCo」と「つみたてNISA」のどちらを利用するか、です。
「iDeCo」と「つみたてNISA」はどちらも税の優遇があり、投資をする際にはぜひ活用したい制度です。
しかし実際の優遇の内容はかなり異なり、どちらが得になるかは利用の仕方でかわってきます。
投資額が「iDeCo」「つみたてNISA」の限度額の合計を超える場合は話は簡単で、両方を限度額いっぱいまで利用するのがベストです。
しかし妻の場合、 毎月1万円というような少額の積立てを予定しています。
このようなケースでは、どうしたらよいでしょうか。
「iDeCo」と「つみたてNISA」の特徴
「iDeCo」と「つみたてNISA」の税優遇は次のようにまとめられます。
「iDeCo」
- 拠出時に所得控除によって所得税、住民税が控除される
- 運用時に利益に対して、(その場では)課税されない
- 受け取り時に退職所得として課税され、納める税額は((残高 -80万円)/2)×15%
3について補足します。
妻は退職金の出る会社に勤めており、勤続年数による退職所得の優遇枠は、そちらで使い切る予定です(ありがたいことです)。
この場合でも、「iDeCo」の一時金受け取りの年をずらすことで、80万円の控除が受けられます。退職所得の優遇により、課税所得をさらに半分に圧縮することができます。
退職所得控除を利用しても所得をゼロにできない場合「iDeCo」は「非課税」ではなく「課税繰り延べ」+「税率優遇」と考えられます。
税金がかかるケースでは、課税対象が「利益」ではなく「残高全体」である点が重要です。投資をして損失が出ていても、受け取り時の残高に対して税金がかかります。
ただし損失が出た場合は口座残高が減少しますので、納税額も減ることになります(うれしくはないですね)。
なお退職所得は累進課税されますが、妻の場合は拠出総額が小さいので、最低の税率(所得税5%、住民税は一律10%)に収まると思います。
「つみたてNISA」
- 解約時点(または20年経過時)の金額=取得金額とみなされるので、利益が出ていても課税されない
- 一方損失が出ていても、引き出し時(または課税口座への移管時)の金額=取得価格になってしまう
「つみたてNISA」は、利益が上がっているときはお得なのですが、損失が出ている状態で売却しても、課税課税口座との損益通算で損失(の一部)を取り返すことができません。
あるいは、含み損を抱えたまま20年経過して課税口座に移管した場合、その後の上昇分に税金がかかってしまいます。
ということで、おおざっぱに考えると、「つみたてNISA」で損失が出た場合、(取得金額 ー売却または移管時の金額)×20%の税金がかかるとみなせます。
以上を考慮すると、
- 投資の利益が上がるなら「つみたてNISA」で投資するのがお得
- 利益が上がらないなら「iDeCo」で投資するのがお得
になりそうです。
この結論、私はちょっと意外に感じました。
「iDeCo」の所得控除はとてもお得なので、どんなときも「iDeCo」を優先する方がよいような気がしていたのです。
でも考えてみれば、「iDeCo」の所得控除は拠出した時点で完了しているわけです。その後は増えない方が、納税額は減るのですね(増えない方が得というわけではないですが)。
実際の損得は?
簡単な計算をしてみます。
条件は、次のとおりです。
- 60歳までの間に、200万円をリスク資産に投資する
- 無リスク資産も200万円貯める(利率は0%で計算)
- 60歳時点の「iDeCo」拠出額は200万
- 「iDeCo」は一時金で受け取る(退職所得扱い)
- 退職所得の勤続年数による控除枠を「iDeCo」では使わない(定年退職と年をずらして「iDeCo」の一時金を受け取る)
「iDeCo」で投資(「つみたてNISA」は利用せず、200万円を預金)したケースを表1、「つみたてNISA」で投資(「iDeCo」は定期預金で運用)したケースを表2に示します。
赤で示したものがお得になることを示しています。
予想どおり、損益がマイナスになる場合は「iDeCo」がお得、プラスの場合「つみたてNISA」がお得という結果が得られました。
※損益ゼロでも元本の400万円を下回っていますが、「iDeCo」拠出時の所得控除を考慮すれば、お得になっています。
表1 iDeCoで投資(iDeCo:200万円、預金:200万円)
損益 | iDeCo | iDeCo税 | NISA | NISA税 | 預金 | 資産合計 |
-20% | 1,600,000 | 60,000 | 0 | 0 | 2,000,000 | 3,540,000 |
-10% | 1,800,000 | 75,000 | 0 | 0 | 2,000,000 | 3,725,000 |
0% | 2,000,000 | 90,000 | 0 | 0 | 2,000,000 | 3,910,000 |
10% | 2,200,000 | 105,000 | 0 | 0 | 2,000,000 | 4,095,000 |
20% | 2,400,000 | 120,000 | 0 | 0 | 2,000,000 | 4,280,000 |
表2 つみたてNISAで投資(iDeCo:200万円、つみたてNISA:200万円)
損益 | iDeCo | iDeCo税 | NISA | NISA税 | 預金 | 資産合計 |
-20% | 2,000,000 | 90,000 | 1,600,000 | 80,000 | 0 | 3,430,000 |
-10% | 2,000,000 | 90,000 | 1,800,000 | 40,000 | 0 | 3,670,000 |
0% | 2,000,000 | 90,000 | 2,000,000 | 0 | 0 | 3,910,000 |
10% | 2,000,000 | 90,000 | 2,200,000 | 0 | 0 | 4,110,000 |
20% | 2,000,000 | 90,000 | 2,400,000 | 0 | 0 | 4,310,000 |
上のシミュレーションでは、「つみたてNISA」にかかる税金を10年後の損益で計算しました。
しかし実際は、最長20年間「つみたてNISA」に置いておくことができます。その間に運用がプラスになれば、税金の不利は生じません。
このことまで考えると、妻のように「全力投資でないケース」では「iDeCo」で定期預金、「つみたてNISA」で投資が有利になりそうです。
今回は投資額を200万円としましたが、「つみたてNISA」の枠内なら金額によらず「つみたてNISA」の方が有利だと思われます。
なお「iDeCo」受け取り時の課税は累進課税ですので、ものすごいインフレーションが起こるなどして「iDeCo」の残高が膨らむと、税額が恐ろしいことになります。
ということで、妻には「つみたてNISA」口座の開設を勧めたいと思います。
次なる問題は積み立てる商品の選択ですが、これはまた別の機会に。
お付き合い、ありがとうございました。